「夢」の和歌
歌人の詠む和歌はとことん幻想的できれいなんですよね〜。
今回は私の大好きな「夢」の和歌を紹介します!
思ふこと
むなしき夢の
中空に
たゆともたゆな
つらき玉の緒
(希望がはかない夢みたいに空中でプツンと切れてしまっても、命はそんな風に切れてしまわないで)
「思ふこと」っていうのは希望や何かやり遂げたかったことです。これらを失って、人生に何も見出せなくなっても命だけはある。それだけは失ってはダメだ、ということを本当にきれいにまとめあげた和歌だと思います。夢が途切れるのと、命の緒が切れてしまう様子が重なります。
思ふべし
花たちばなの
軒古て
昔にたどる
袖の香の夢
(想像してみて。花橘が咲いている軒端は古びてしまって、かつて愛した人の袖の移り香みたいなその薫りから夢のように辿られる昔のことを。)
橘の花の花言葉は「追憶」。橘の花が登場してる和歌は、ほぼ昔を懐かしんでるものです。次に紹介する歌と情景が似てますけど、私としてはこっちの歌の方がより風景が広がっていく感じがします。
帰りこぬ
昔を今と
思ひ寝の
夢の枕に
にほふ橘
(昔はもう二度と帰らない、そうわかっているのにあの頃に戻りたいと願いながら眠ってしまった。その夢の中で私は昔に戻ってた。ふと目覚めたら枕辺に橘の香りがしたの。)
戻りたかった「あの頃」、そしてその思い出の中にいる人は誰だったのかな、とか色々想像が膨らみます。橘の香りを最後に持ってくることで余韻を強く感じます。
三諸の
神の神杉
夢にだに
見んとすれども
寝ぬ夜ぞ多き
(三輪山の神の杉の霊験にすがって、亡きあなたを夢でだけでもいいから見たいのに、あまりにつらくて眠れない夜ばかりなんだ。)
高市皇子の歌はこれを含めて三首しか残っていません。これら三首は全て十市皇女という女性の死を悼んだ歌です。二人は思い合っていたのですが、様々な障害のせいで結局結ばれることのないまま十市皇女が亡くなったとされています。数ある挽歌の中でも特に切ない歌です。
夢の世に
なれこし契り
くちずして
さめむ朝に
あふこともがな
(むなしい夢みたいな世に生まれてきたけど、あなたとの約束を死ぬ前に果たしたいんだ。いつか全てが終わって、あなたに会える時がきたらいいのにな。)
追放され無念のまま亡くなった崇徳院。怨霊と恐れられ、悲劇の帝として知られる彼ですが、約束を果たしたい、恨みも悲しみもない世界で大切な人と出会いたかったと願う心はどこまでもまっすぐです。悲劇の連続だった彼だからこそ、人の心を揺さぶる切実な思いを歌い上げられたのだと思います。
思ひつつ
寝ればや人の
見えつらむ
夢と知りせば
覚めざらましを
(あなたを思って寝たからあなたが夢に出てきてくれたのかな。夢だってわかってたら目なんか覚まさなかったのに。)
夢の和歌の中で一番有名なんじゃないでしょうか。平安時代と現代とでは、文化も価値観も違ってきます。それでも、この歌みたいに十分共感できる思いがあるんですよね。この時代の超越性が私はとても好きですね。
以上6首でした!案外夢の歌って数が少ない気がします。夢そのものを歌うというよりも、夢みたいにはかない世界を嘆いたり、夢が見れなかったりする内容の歌のほうが多いように感じました。色々他のテーマでもやっていきたいです。